息子がユースセレクションに挑戦した(3)

二つのセレクションを連続して受験し、良い経験にもなったが、本人にとっては実力を思い知らされたような7月だった。
しかし、まだチャンスはあるとばかりに都内のクラブの名前を上げたり、都内の私立高校の名前が彼の口から出てきたりといろいろなことを言う。もちろん、県内の公立高校を現実的な選択肢として考えてもいた。要は、かなり揺れ動いていたということだ。
中学生くらいの年端として、それはまぁ当然といえば当然だろうとは思う。が、親としてはもう落ち着いて、現実路線を考えてくれないかという思いが強くなっていた。でも、彼は2年間ほとんど全力でプレーできなかった分をこの夏で取り返すのだ、とばかりに多少の受験勉強はしつつも、まだサッカーへのこだわりを捨てなかった。イニエスタのビデオを繰り返し観察し、鍼灸の先生に質問攻め、そして自主練。たまに塾(笑)。所属クラブの練習は夜しかなかったので、この暑い夏に順化しなければと真昼間にランニングなどしていたらしい。

暑く長い夏はまだ続くのだった。

しかし、現実的に考えて県外のクラブや県外の私立高校は無理であると、親としてはっきり言った。それで、県内のJクラブのセレクションをもう一つ受けることになった。まぁ、以前からそのつもりではあったけど。
最後になるかもしれないセレクションまでの2週間足らず、彼の心境はどうだったのだろう?日々いつもと変わらぬような風情ではあったが、あきらめとか不安とか様々な思いが交錯していたのではなかろうか?セレクションの申し込み用紙も、置き去りにされていて、母親に尻を叩かれ締切ギリギリになって投函したようだった。
ただ、ひとつ県内の私立高校から特待生で来ないかという誘いは監督から入っていた。これだけは多少本人の救いになっていたろうと思う。ただ、この学校はサッカーに力を入れ始めたばかりの学校で、これから選手を集めるというのが実情であり、まだ海のものとも山のものともわからないところがある。監督さんは信頼できるのだけれど…。自分はさておき(笑)上手い連中と一緒にサッカーがしたいというのが彼の第一希望である。来年どんな選手が集められるかまだわからないところでは多少不安があるようだった。

8月初旬。セレクション会場についた。相変わらずジリジリと暑く、肌がぴりぴりした。
集まった選手は50から60人ほどだろうか、5チーム程に分けられた。皆が集められコーチが話している内容が聞こえた。内部から採る者はもう決めた。この中からは数人採ることになるかもしれないし、ならないかもしれない。ポジション的にはボランチかそれより後ろの選手が欲しいとも思っている…など。
え?そんなこと話しちゃっていいの?という内容だった。チーム分けしてポジションはチーム内で話し合いで決めさせるのだろうから、皆ボランチをやりたがるんじゃぁないのか?(笑)そんな心配をよそに走力テストの後、早速フルコートのゲームがはじまった。
後で聞いたのだが、この中には先のセレクションで顔をあわした子もいたようで、その子はそちらでは三次選考まで受かっているらしかった。
このときの息子の心境はどんなだったのだろう?と思う。これが最後だというようなプレッシャーはなかったのだろうか、もういろんな意味で吹っ切れていたのだろうか?開き直っていたのだろうか?
最初のゲーム。彼はちゃっかりボランチの位置に入っていた。話し合いの中でかなり主張したのか、しないのかそれはわからなかったが(笑)。
で、この最初のゲームが私の目から見ていてけっこうよかった。ボランチの位置にそれほどプレッシャーがかからないこともあって、ボールを散らしたり、アウトサイドのアタッカーやトップをウラに走らせるような長いパスを右足、左足から連発した。イニエスタばりに何回も周囲をスキャンしつつパスを受けに行こう、決定機を演出するようなプレーをしてやろうという姿勢が見えたし、そこそこゲームの流れを決めるような働きをしていたように見えた。ディフェンス面では相変わらず私に言わせるとダメダメだったが(笑)。
2ゲーム目にはポストをかすめるミドルシュートを放つなどアピール度も上げていた(笑)。本人によるとミドルは虎視眈々と狙っていたらしい。なかなか、したたかではある。
3ゲーム目はボランチからサイドバックにポジションを途中から変えて、オーバーラップして相手ペナルティまで侵入したりして、けっこう自由奔放にというかアグレッシブにプレーする姿が見られた。ただ、暑さもあって最後の方はバテバテであった。それは皆もそうだったが…。

と、まぁこの日の彼はいい出来であったと思う。しかし、これはセレクションだ。選ぶ方がどういう選考基準を持っているのか、またコーチの手元のリストにはすでにリストアップされた選手がいるのだろうから、それを押しのけてまで息子が選ばれるのかどうかといえば、可能性は限りなく低いと私は考えていた。

(続く)